
「老後資金2,000万円問題」がメディアにより報道され、世間の話題となっています。
それに伴い、「年金制度の崩壊」に対する不安が蔓延し、老後に対する心配の声がますます加速することとなってしまいました。
このような不安を煽るような報道に対して、「急にそんなこと言われても・・・」と心配になるのも当然です。
それでは実際のところ、年金制度は本当に崩壊してしまうのでしょうか。
この記事では、年金制度の崩壊についてわかりやすく解説するとともに、これからの年金制度がどうなるのかについて考えてみたいと思います。
Contents
なぜ「年金制度は崩壊する」といわれているのか
年金制度の崩壊が世間で話題となったのは、記憶に新しいかと思います。
ことの発端は、2019年6月に金融庁が公表した報告書です。
そこには「老後の資金として年金以外に1,300〜2,000万円の蓄えが必要」とする旨が記載されていました。
その報告書の内容に対して、与野党から「年金制度の崩壊を認めた」として批難されることとなります。
当然、年金を頼りに老後のことを考えている人にとってはかなり衝撃的な発表となり、世間を騒がせる事態となりました。
そして、メディアも「老後資金2,000万円問題」として“年金制度の崩壊”という謳い文句とともに、連日こぞって取り上げていました。
確かに聞こえ方によっては、「将来の年金制度は崩壊しているかもしれないので、個人で2,000万円ぐらい貯めておいてね」と無責任な発言として捉えることもできます。
しかし、年金制度の崩壊に対して不安の声が上がっているのは、今に始まったことではありません。
2011年12月11日にテレビ朝日「報道ステーション」にて、当時の厚生労働大臣が「年金は何年間、安心か」と問われた際、「100年以上安心」であると明言しました。
その根拠となっているのは、政府がまとめた年金積立金運用の見通しです。
年金は、支払う給付金に対して徴収した保険料が上回っている場合、その分を毎年積み立てています。
2006年には約165兆円の積立金があり、年々目減りしている傾向にありますが、ここ100年は積立金が枯渇することはないという見通しを政府が立てたのです。
これに対して某政党や厚生労働省も、「100年安心プラン」として大風呂敷を広げていました。
ところがこの政府の積立金運用の見通しが甘いとして、「2035年までに積立金が枯渇する」という見解が、一部の経済学者などの中で上がりました。
この「積立金の枯渇問題」も、年金制度の崩壊が叫ばれる一因となっています。
本当に年金制度は崩壊するのか
「年金制度の崩壊を認めた」として金融庁の報告書が各方面から批難されていますが、果たして本当に年金制度は崩壊するのでしょうか。
結論から先にお伝えすると、年金制度が崩壊する可能性は限りなく低いでしょう。
加えて、将来的に年金がもらえなくなるといったことも考えにくいです。
その理由を理解するためには、年金制度に仕組みについて知っておく必要があります。
年金制度の仕組み
まずは、年金制度についての誤解を解くところから始めましょう。
年金は「老後のための蓄え」ではありません。
年金とは「長生きしたときのための保険」であり、本質はあくまで保険なのです。
皆さんは、自分が支払った保険料がどのようになるのかご存知でしょうか。
「自分の払った保険料は、日本年金機構にある当座預金などに積み立てられている」
「老後の際は、そこで確保されている資金から自分の年金として毎月の支払いが行われる」
このように解釈されている方も、中にはいるのではないでしょうか。
実際のところ、自分の払った保険料が、どこか自分専用の当座などに積み立てられているということはありません。
払った保険料は、そのときの年金給付者の給付金として、一瞬にして消え去っています。
これは、日本の公的年金が“賦課方式“という仕組みだからです。
賦課方式とは、簡単にいうと「今の若者が、今の老人の年金を支える」という財政方式です。
今払っている保険料は、今の年金として瞬時に充てがわれているのです。
現状では、少子高齢化が進んで働き手が少なくなっていることもあって、徴収している保険料だけで全ての年金を支払うことができていません。
不足した分は、今までの積立金を取り崩したり、国が負担したりすることとなります。
その結果、積立金は年々減少しており、近い将来積立金が枯渇するのではないかと心配されているのです。
年金制度が崩壊しない理由
「年金の積立金は将来的に枯渇するかもしれない」と前述しましたが、枯渇したからといって、年金制度が崩壊するわけではありません。
積立金が枯渇しても、赤字国債の発行や税金を投入するなどして不足している分を国が補うこととなり、年金の支払いができない状況とはならないでしょう。
また、国は徴税権を持っていますので、保険料の引き上げを強制的に行うことも可能です。
場合によっては、最近受給開始年齢を65歳に引き上げたように、年金制度を改革することもできます。
このように、何らかの財政政策や制度改革を伴って、そのときの年金が支払われます。
したがって国が国家としての機能を果たしている限り、年金制度が崩壊することはありません。
国民が保険料を支払う義務をあるのに対して、国には年金を支払うという責任があります。
保険料を払っている限り、将来的に年金がもらえなくなることはありません。
これからの年金制度はどうなるのか
年金制度が崩壊することはないとしても、これから先の10年後、20年後の年金制度は今とは違ったものとなっているでしょう。
ここからは、これからの年金制度について「もらう側」と「支払う側」の両方の視点に立って見てみます。
将来いくらもらえるのか
年金制度が崩壊しないのなら、「自分が将来いくら年金をもらえるのか」について気になるところだと思います。
およその目安として、サラリーマンの場合は「自分の月給の約40%(厚生年金)+約55,000円(国民年金)が、毎月の年金として受け取れる額だと思ってください。
月給が30万円の場合、12万円(=30万円×40%)+55,000円となり、毎月17万5,000円ほどの年金を受け取れます。
厚生労働省の発表によると、国民年金の平均給付額は約55,000円となっていますが、実際は加入年度や納付状況によって国民年金の額は変動します。
また給付開始の年齢が65歳となりましたが、申請することにより給付開始を60歳に引き下げたり、70歳まで引き上げたりすることができます。
その際も年金額は変動し、もちろん引き上げた方が月々にもらえる年金は多くなります。
自分が将来いくら年金をもらえるのか詳しく知りたいという方は、日本年金機構がサービスとして提供している「ねんきんネット」を利用してみてください。
ご自身の納付状況だけではなく、年齢の引き上げ・引き下げをシミュレーションして、将来の年金見込み額を計算して提示してくれます。
保険料はどうなるのか
年金保険料については、将来的に引き上げられることが予想されます。
最近の動向として、国民年金の保険料は16,000円代で推移しており、厚生年金については平成29年9月以降から上限である18.3%に設定されています。
厚生年金における18.3%とは給与所得に対する割合のことですが、会社と負担を折半しています。
よって個人として負担している保険料は9.15%であり、そこから国民年金の保険料も一緒に支払われています。
現状として賦課方式のみで年金の支払いができていない状況なので、上限を改正して保険料が引き上げられることは充分考えられます。
将来的には、厚生年金の保険料を約25%まで引き上げないと年金の給付を賄えないともいわれています。
保険料が引き上げられるとなると、少なからず不満の声が上がることでしょう。
しかし年金の本質はあくまで保険なので、状況によって保険料が引き上げられるのは合理的な手段です。
例えば、自動車保険では加入者の事故歴などで保険料は変わりますし、生命保険では加入者の健康状態によって保険料は異なります。
年金も同じように、状況によって保険料が引き上げられるのは当然のことなのかもしれません。
だからといって、むやみやたらに引き上げればいいというものではありません。
保険料が引き上げられると現役世代の負担がさらに増加し、不満が募る一方です。
遡ってみると、1960年代の保険料は3.5%でした。
1970年代でも6.2%で、現在の三分の一程度です。
このように比較してみると、現役世代から反発が起こるのも無理はありません。
国の政策により年金制度が崩壊することはないにしろ、年金を支える現役世代が「こんな制度はないほうがいい!」と思ったとき、年金制度に対する信頼は失墜することになるでしょう。
まとめ
今回は日本の年金制度が崩壊するかどうかについて紹介しました。
結論としては、日本の年金制度が崩壊する可能性は限りなく低いです。
しかし、だからといって、完全に安心はできません。
上記で紹介したように、将来もらえる年金のおよその額はすぐにでも把握することができます。
その額に対して毎月の生活を送ることができるのか、今のうちにしっかりと将来設計して検討することが大切です。
もしも足りないと感じるなら、老後に向けた貯蓄や資産運用を始めるなどして、現実的な対策を打つ必要があります。
これを機会に、ご自身の年金と老後ついて、今一度見直してみてはいかがでしょうか。
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